安心して競技に打ち込める環境づくりへ手を尽くしたい。
スポーツ選手らへの盗撮が問題となる中、盗撮行為を「性暴力」と位置づけ、根絶を目指す条例が先月、三重県で制定、施行された。
性的な意図を持ち、同意や正当な理由なく選手らの姿態や部位を撮影する行為をアスリート盗撮と規定し、選手が所属するチームや大会主催者などに対し、根絶を努力義務とした。
罰則はないが、盗撮を性犯罪や性的虐待、ストーカー行為と同じ性暴力と明文化した意義は大きい。許されない卑劣な行為との認識と対策を広げ、後を絶たぬ被害の防止につなげたい。
同じく性暴力と位置づけて昨年に条例改正した福岡県では、根絶に向けた対応指針を策定。撮影が可能な種目や場所の限定、事前の許可証発行などの具体策を盛り込んだ。
盗撮による人権侵害はプロ選手から児童生徒まで及んでいる。交流サイト(SNS)で画像が拡散され、不安や恐怖から思うように練習できず、大会出場を見送った例も出ている。
日本オリンピック委員会(JOC)などスポーツ界の7団体が被害防止を訴える共同声明を発表してから5年になる。JOCは先月、トップ選手の1割近くが盗撮や写真を悪用された経験があるとの実態を公表した。
先の通常国会で、議員立法により改正されたスポーツ基本法では、選手の盗撮やSNSでの誹謗中傷への対策を国と自治体の責務とした。具体的な取り組みを進めなくてはならない。
盗撮を巡っては2023年の法改正で、性的部位や下着の撮影を取り締まる「性的姿態撮影罪」が新設された。だが、ユニホーム姿の撮影は対象外となり、規制の検討を求める付帯決議が衆参で採択されている。
各自治体は迷惑防止条例で規制に踏み込み、京都府では20年、服の上からでも執拗(しつよう)に胸や尻を撮影する行為を禁止した。全国都道府県対抗女子駅伝で府警の捜査員を沿道に配置するなどし、摘発につながっている。
ただ、自治体によって違反とする内容は異なり、全国的な法規制を求める声は根強い。
スポーツ庁が昨年、実施した調査によると、国内競技団体の約半数となる62団体が、警備員の配置や巡回などに取り組み、選手が相談、通報できる窓口も42団体が設置していた。
それでも盗撮か通常の撮影かの線引きは悩ましく、撮影手口の巧妙化で現場の手探り状態は続く。屋外の駅伝やマラソンでは警戒の難しさが増す。
撮影画像の悪用防止も問われよう。SNSで収益目的とみられる投稿や不適切な拡散に対し、事業者も交えた対策強化が不可欠だ。
防止策の課題を洗い出し、法整備と実践的な取り組みを前に進めたい。
京都新聞 – 2025/11/08 16:00