米カリフォルニア大学アーバイン校に所属する研究者らが発表した論文「Invisible Ears at Your Fingertips: Acoustic Eavesdropping via Mouse Sensors」は、コンピュータマウスの光学センサーを利用した新たな盗聴攻撃手法「Mic-E-Mouse」を提案した研究報告だ。
【画像を見る】音声の振動を机経由でマウスの光学センサーが検出し、AIによる信号処理で元の会話を復元する攻撃の仕組み【全3枚】 人が話すと音声が空気を振動させ、その振動は机の表面にも微細な波として伝わる。通常のマウスではこの振動は検出できないほど小さいが、最新のゲーミングマウスに搭載される高感度センサーは、この極めて微小な動きを捉えることができる。
現代の光学マウスは1秒間に数千回もの画像を撮影し、その変化を解析して動きを検出している。特に2万DPI以上の解像度と4kHz以上のポーリングレートを持つゲーミングマウスは、人間の音声が引き起こす机表面の振動を検出可能なレベルにある。 研究チームは、この振動データを収集してAIを用いた信号処理パイプラインに通すことで、ノイズを除去し元の音声を再構築することに成功した。
実験では「Razer Viper 8KHz」や「Darmoshark M3-4KHz」など、PixArt Imaging社製のPAW3395やPAW3399センサーを搭載したマウスを使用。80dBの音声環境下で、約42~61%の音声認識精度を達成した。信号対雑音比は最大19dB改善され、人間による評価では約16.79%の単語誤り率まで音声を復元できたという。
この攻撃が特に危険なのは、実行の容易さにある。攻撃者は管理者権限を必要とせず、Qt、GTK、SDLといった広く使われているソフトウェアライブラリを通じてマウスイベントを取得できる。これらは正規のライブラリで、画像編集ソフトやゲーム、オフィスソフトなど無数のアプリケーションで日常的に使われている。攻撃者はこれらの正規APIを通じてマウスの動きデータを収集し、外部サーバで処理することで盗聴できる。
ただし現段階では、攻撃の成功は環境条件に大きく依存する。音量が50dBまで低下すると認識精度は大幅に落ち込み、硬い表面や厚い机では振動の伝達が悪くなる。またマウスが頻繁に使われている場合、その動きがノイズとなって音声信号の抽出を困難になる。
Source and Image Credits: Fakih, Mohamad, et al. “Invisible Ears at Your Fingertips: Acoustic Eavesdropping via Mouse Sensors.” arXiv preprint arXiv:2509.13581(2025). ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
ITmedia NEWS - 2025/10/03 08:05