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勾留請求の却下率と盗撮事件

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被疑者にとっては徐々に有利な方向へ

近年、被疑者に対する勾留請求の却下率は全体として増加傾向にあります。冤罪の防止などの面もありますが、犯行を認めている被疑者にとっても身柄が拘束されないというのはシンプルにありがたいことです(一般社会にとってありがたいかどうかはわかりませんが…)。

こういった状況と盗撮事件における事情について、去年の新聞記事なのでやや古いですが関連する記事の内容とともに触れてまいりたいと思います。

勾留請求は実際に却下されることが増えているのか?

去年の毎日新聞の記事において、痴漢事件の勾留請求の却下について以下のように紹介されています。

捜査段階で容疑者の拘束を解く裁判所の判断が急増していることが明らかになった。行き過ぎた拘束を見直す意識の高まりが背景にあり、東京地裁では痴漢事件の勾留請求を原則認めない運用が定着している。長期の拘束が社会生活に与える影響を考慮した判断で、弁護士らは冤罪(えんざい)の防止につながることを期待している。

(中略)

2005年の東京地裁の勾留請求の却下は389件(却下率1・5%)で、全国の却下件数の5割強を占めていた。14年には約3倍の1171件(7・8%)に増加したが、全体に占める割合は4割弱に低下しており、却下の動きが地方にも広がっているとみられる。
引用元 : 毎日新聞 2015年12月24日 配信

東京地裁における勾留請求の却下率がここ10年で約3倍に増えており、その増加傾向が地方にも広がっているとされていますが、全国的な傾向としては犯罪白書からも読み取れます。

勾留請求却下率の推移がグラフで掲載されているのが平成24年版までですが、これによると平成23年までに約1.19%となっています。それ以降は検察庁既済事件の身柄状況から計算すると平成25年版で約1.38%、平成26年版で約1.6%、平成27年版で約2.24%と増加し続けています。

これらはあくまで全体の却下率ですが、毎日新聞の記事で焦点が当てられている痴漢については事件の性質や罪の程度などを考慮すると全体の傾向と同様か、またはそれ以上に勾留請求の却下率は増加していると思われます。

痴漢事件における事情

被疑者を勾留する権限は警察や検察官ではなく裁判所が持っているものですので、被疑者の身柄を拘束して捜査を行いたい場合は検察官が裁判所に対して勾留請求を行い、裁判官が被疑者に対して勾留質問を行ってその是非を判断します。

是非を判断するといってもこちらの記事に掲載しているように勾留質問では被疑事実に対する意見を聞かれて終わりなのですが、裁判官が勾留までする必要はないのではないかと感じればあれこれ質問してきたり、毎日新聞の記事で挙げられているように誓約書などへの署名を取った上で勾留請求を却下する場合があります。

近年、痴漢事件で無罪判決が相次いだことを受け、東京地裁は痴漢で逮捕された容疑者の勾留を原則認めていない。「事件があった路線に乗車しない」とする誓約書へのサインを求め、応じた場合は勾留請求をほとんど退けているという。
引用元 : 毎日新聞 2015年12月24日 配信

なお、勾留においては3つの要件があり、いずれかに該当すると裁判官が判断すると勾留されることになります。

勾留の要件

  1. 被疑者が定まった住居を有しないとき。
  2. 被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
  3. 被疑者が逃亡し、又は、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

これらの要件に関する部分も毎日新聞の記事で触れられており、痴漢事件においては確かに該当しない場合が多いと感じられるので、同様の判断を行う裁判官が増えてきていても不思議ではありません。

あるベテラン裁判官は「後に無罪判決が出ても、勾留が続けば解雇される恐れがあり、影響は大きい。拘束までする必要はないと考える裁判官が増えている」と説明。元裁判官で冤罪事件に詳しい秋山賢三弁護士も「痴漢で逮捕される人の多くは家族がいて勤務先もはっきりしている。証拠も被害者の供述に限られることが多く、勾留の必要はない」と強調し、裁判所の対応の変化を歓迎する。
引用元 : 毎日新聞 2015年12月24日 配信

1の「定まった住居を有しない」に該当するケースは少ないでしょう。また、家族がいて勤務先もはっきりしていれば3の「逃亡し、又は、逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある」に該当しないと考えることもできます。

記事において元裁判官の弁護士が強調するように痴漢事件においては被害者の供述以外に証拠がないという場合もありますので、2の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」については逆に何が隠滅できるのかという話になります。

盗撮事件における事情

盗撮事件の場合に触れる前にあらかじめ申し上げておきますと、罪証の隠滅とは物的な証拠を隠滅することには限りません。例えば、被害者に接触して脅し、嘆願書を書かせるといった行為も罪証の隠滅に含まれます。

そのため、上述のケースでは痴漢事件の被疑者が被害者を見つけて脅し、被害届や告訴を取り下げさせるといったことも考えられるので必ずしも「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」に該当しないとは言えません。しかし、これについては誓約書などへの署名をもって担保できると判断する裁判官もいるでしょう。

さて、盗撮事件においてはどうでしょうか。適用される罪名や罪の程度、被疑者の属性や再犯率の高さなどはこちらの記事で挙げた犯罪白書のデータを踏まえると痴漢と近いものがありますが、上述した勾留の要件において痴漢と盗撮では1点大きく異なる点があります。

被疑者の属性がいずれも近いことを考えると「定まった住居を有しない」や「逃亡し、又は、逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある」に該当しないことは同様と見られます。何が異なるのかというと、やはり罪証隠滅のおそれということになるでしょう。

盗撮事件で逮捕されるとそのときに撮影していた画像や映像などのデータは押さえられることが多く、もはやそれらの証拠を隠滅できる余地はありません。しかし、痴漢と違って盗撮の場合は過去の余罪の証拠となるデータを自宅のPCやハードディスク等に記録して残していることが多く、身柄の拘束を解いたらそれらを削除するなどして隠滅されることは誰にでも想像できます。

そのため、勾留質問に至るまでの取り調べにおいて、自宅のPCやハードディスク等に盗撮したデータを記録しているなどといった供述を行った場合はそのまま勾留される可能性が高くなると考えられます。

もっとも、記録していないと言ったところでそれが信用されない場合もあるでしょう。盗撮の手口などの犯行態様や前科状況なども含めて考慮した結果、疑わしいと判断されれば家宅捜索による差押などの前に身柄の拘束を解くのは妥当ではないということになるかもしれません。

まとめ

全体として勾留請求の却下率が増加していることは事実ですが、自宅のPCやハードディスク等にデータを記録していることが多い盗撮事件の場合は安易に身柄の拘束を解くことができないことがあります。

近年では盗撮したデータをネット上で公開したり販売したりといったケースもありますので、犯罪の性質としても痴漢と比べると厳しい面があると言えるでしょう。

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