教員による盗撮事件が大きな波紋を広げている。前編で詳しく振り返った一連の事件は、すべての教員に今後の学校のあり方がどうあるべきかについて投げかけている。多くの真面目な教員にとっては迷惑な話だが、子どもの成長を支える学校本来の役割を発揮するにはどうしたらいいのか。フリージャーナリストの前屋毅氏に考えてもらった。
【グラフで見る】児童生徒性暴力等で懲戒処分を受けた教員は2023年度で157人もいる 名古屋市と横浜市の小学校教員が、女子児童を盗撮した画像などを交流サイト(SNS)のグループチャットで共有したとして逮捕された。この事件を受けて阿部俊子文科相は7月1日の記者会見で、チャットに参加したほかの教員に「一刻も早く名乗り出てほしい」と述べた。
その文科相の呼びかけがあった翌日の7月2日、またもや教員による児童の盗撮事件が明るみにでた。埼玉県警が同県所沢市立小学校の教員(48)を建造物侵入の疑いで逮捕したのだが、盗撮の疑いがもたれている。
この小学校の教室で、7月1日の午後4時ごろに穴の空いた筆箱に入ったスマートフォンが教室内に置かれているのを、この教室の担任が発見し、スマートフォンの中身を確認したところ児童を盗撮した映像があったため、校長が警察に通報したという。この教室では、プールの授業に備えて女子児童が着替えをしていた。
逮捕された教員は「自分の授業の様子を撮ろうとした」と学校側には説明したそうだが、その教室での授業をこの教員は担当していない。また警察では、「スマートフォンを教室に置き忘れただけ」と容疑を否認しているという。いずれも苦しい言い訳にしか思えない。
それにしても、盗撮画像をチャットで共有した教員が逮捕された事件のショックが冷めやらない最中での事件である。「開いた口が塞がらない」とは、こういうときのためにある表現に違いない。
こうした教員による性暴力から子どもたちを守るための対策を早急に講じ、速やかに実施すべきであることは言うまでもない。いったい、どういう対策を取るべきなのだろうか。
名古屋市と横浜市の盗撮事件を受けて文科省は、7月1日付で私用のスマートフォンで児童生徒を撮影したり、学校の端末でも撮影画像を許可なく校外に持ち出さないなどの服務規律の徹底を求める通知を、都道府県教育委員会などに出している。その直後に所沢市の事件が起きているのだから、その効果のほどは危ぶまれる。
盗撮事件で通知を出した文科省は、2022年3月18日付で「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」(2023年7月に改訂、以下「指針」)を文科相決定として示している。
そこには、教員に対して「児童生徒性暴力等の防止等に関する理解を深めるための研修及び啓発の充実を図る」ことや、早期発見のために「児童生徒等や教育職員等に対する定期的なアンケート調査」といった策が盛り込まれている。
しかし「指針」が出された直後の2022年度は、児童生徒性暴力等で懲戒処分を受けた教員は、前年の94人から25人増えて119人となっている。さらに、2023年度は157人である。「指針」が示されても、教員の性暴力は増えていることになる。
「指針」の効果はなかった、とも言える。もちろん、「指針」があったために問題のある教員を発見して処分できた、という見方もできる。
ただ、摘発はできても未然に防ぐことはできなかったのだ。そのために、被害を受けた子どもがいたことはたしかである。事件を摘発することも大事だが、まずは未然に防ぐ策を講じることを優先しなければいけないのではないだろうか。
盗撮事件を受けて名古屋市は、外部の有識者による第三者委員会を7月中に設置し、全市立学校の教員約1万2000人を対象に、同様の事案がないかを調査する方針を表明している。広沢一郎市長は、「(盗撮をした教員が)まだいるんじゃないかと市民、国民が疑念を持っている」と調査の必要性を訴えている。
ほかに盗撮教員がいないことを明らかにすることで市民や国民に安心してもらう、ということのようだ。しかし、全教員を容疑者扱いするかのような調査を、教員は快く受け取められるだろうか。それによって教員が暗いムードをまとえば、学校全体が暗くなってしまう。子どもにも、決してよい影響は与えない。
東洋経済education×ICT - 2025/07/05 10:02