先週報道された盗撮に関するニュースに触れてまいります。
複数の男子生徒 中学校内で盗撮 生徒間で画像売買も 奈良 生駒 | NHKニュース
奈良県生駒市の中学校で複数の男子生徒が女子生徒のスカートの中などを盗撮し、一部の動画や画像を生徒間で売買していたことが学校などの調査でわかりました。
生駒市教育委員会によりますと、生駒市立の中学校で5人から6人ほどの2年生の男子生徒が、去年11月以降、ペン型の小型カメラやスマホを使って、校内で女子生徒少なくとも十数人のスカートの中や着替えの様子を繰り返し盗撮していたということです。
男子生徒たちは無料通信アプリのLINEを使って盗撮した動画や画像をやり取りし、一部は数百円から1000円で売買されていました。「同級生が盗撮しているようだ」という情報が今月7日に生徒から学校に寄せられ、学校の聞き取り調査に対し、男子生徒らは「興味本位でやった」などと話したということです。
教育委員会と学校は警察に相談するとともに、スクールカウンセラーが女子生徒のケアにあたっているということです。
教育委員会と学校は10日夜、記者会見し「被害にあった生徒や保護者に深くおわびします。道徳教育の充実など再発防止に向けた取り組みを進めます」と謝罪しました。
引用元 : NHK 2020年2月11日 2時15分配信
男子中学生による学校内での盗撮と、盗撮データの交換や売買に関するニュースです。教室でクラスメイトの女子中学生などのスカート内や着替え等を盗撮してそれを交換したり売買したりしていたのでしょうが、加害生徒も被害生徒も1人や2人といったレベルではないようで、広く報道されて問題になっています。
学校内での盗撮というと部外者にとってはハードルが高く、これまで捕まって検挙されているのはその多くが教職員による事件でした。内部犯なら少なくとも学校の中にいることに対して怪しまれることはありませんが、同じ内部犯による盗撮でも教職員より怪しまれにくくやりやすいのは生徒による盗撮でしょう。
しかしスカート内や着替えの盗撮がやっていいことか悪いことか、中学生にもなれば普通はわかりますので実行に移す例は稀だと思いますが、スマホが普及しカモフラージュカメラも容易に手に入るようになっていることで悪ノリから発展してしまってこれほどの事態になったのかもしれません。
加害生徒が5人から6人程とされているので、特定のグループの内の1人が最初にやってそれを武勇伝の如くグループ内で自慢などしていたら他のメンバーにも広まってしまったのでしょうか。1人でこっそりやっていたなら交換する相手もいないわけですから盗撮データの交換や売買にまで及んでいるのは加害生徒が多かった点も影響しているでしょう。
ただ、奈良県の迷惑防止条例では教室における盗撮行為を処罰できる規定が無いので、以前の記事で取り上げた秋田県の中学校における盗撮行為の立件が見送られた例のように加害生徒らへの保護処分や刑事処分がゼロということもあり得ます。
奈良県 迷惑防止条例 第12条
- 他人の胸部、臀部、下腹部、大腿部等(以下「胸部等」という。)の身体に触れる行為(着衣その他の身に着ける物(以下「着衣等」という。)の上から触れる行為を含む。)であつて卑わいなもの
- 着衣等の全部若しくは一部を着けないでいる他人の姿態若しくは着衣で覆われている他人の下着若しくは胸部等の身体をのぞき見し、又は写真機等を使用して、その映像を記録する行為であつて卑わいなもの
- 前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動
何人も、みだりに卑わいな行為であつて次の各号に掲げるものをしてはならない。
- 公共の場所及び公共の乗物以外の場所から、写真機等を使用して、透視する方法により、公共の場所にいる他人若しくは公共の乗物に乗つている他人の下着若しくは胸部等の身体を見、又はその映像を記録すること。
- 写真機等を使用して、住居、浴場、更衣室、便所その他の人が着衣等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所(公共の場所及び公共の乗物を除く。)に当該状態でいる他人の姿態の映像を記録すること。
第1項は公共の場所に限定されているので学校内での盗撮には適用できないと考えられ、第2項第1号は赤外線等を用いた透視による盗撮を想定している上に被害者は公共の場所にいることが前提になっているのでこれにも該当しません。
辛うじて第2項第2号の適用の可能性として、学校内の更衣室や更衣室としても使われる教室での着替え盗撮が迷惑防止条例違反となり得るかもしれません。被害者が女子中学生ですのでその場合は児童ポルノの盗撮製造にもなり得ますが、いずれにしても学校内でのスカート内盗撮については不問にするしかない状況なのではないでしょうか。
学校内でクラスメイトの女子中学生などを盗撮して盗撮データを交換、売買するというのは非常に悪質ではありますが、5,6人の加害生徒による少年事件として考えると上記の第2項第2号の違反による迷惑防止条例違反や児童ポルノの盗撮製造、その提供や販売に当たると判断されてもおそらく厳しい処分はされないように思われます。
おそらく刑事処分ではなく保護処分となり、それも少年鑑別所等へ行くことも無くせいぜい保護観察処分といった程度ではないでしょうか。場合によっては厳重注意の上、不処分で実質的にお咎め無し、加害生徒らが転校することで手打ちということもあるかもしれません。
病院内トイレの芳香剤に隠しカメラ 設置した医師を逮捕、盗撮目的か
勤務先の病院の職員用トイレに小型カメラを設置したとして、中原署は12日、県迷惑行為防止条例違反の疑いで、川崎市立井田病院の内科副医長(40)=東京都世田谷区=を逮捕した。
逮捕容疑は、昨年12月10日から同27日午後0時ごろまでの間、同市中原区井田の同病院で、職員専用の男女共用トイレの個室内に小型カメラ1台を設置した、としている。容疑を認め、女性への盗撮目的だったことをほのめかす供述をしているという。
署によると、女性職員が芳香剤のケースの中に隠されていた小型カメラを発見した。カメラのSDカードのデータを復元したところ、設置している同容疑者が写っていた。
市病院局の田邊雅史局長は「誠に遺憾。今後、詳細な事実関係を確認した上で、厳正に対処していく」とコメントした。
引用元 : 神奈川新聞 2020年2月12日 20時40分配信
医師によるトイレ盗撮事件ですが、逮捕容疑は盗撮目的でトイレにカメラを設置した疑いとのことなので今のところ実際に盗撮に至ったとはされておらず盗撮準備行為に留まっているようです。
トイレにカメラが設置されていた期間が12月10日から27日までの2週間余りとされていますので、果たしてこれだけの期間で盗撮できていないということがあるのだろうかという疑問もあります。もしかすると今後盗撮できていたことが裏付けられて別途立件されることもあるかもしれません。
被疑者特定のきっかけは女性職員が発見したカメラの中のSDカードを復元してみたら被疑者が映り込んでいたことのようですが、女性職員が発見してから間もなく警察が押収していると思われ、被疑者がデータを消去できる余地は無かったでしょうから今回設置されて撮られていた映像とは別の過去のデータが復元できたということでしょうか。
又は、今回トイレにカメラを仕掛けるにあたってチェックのためなどに撮っていて、本格稼働の前に消去したデータがあったのかもしれません。仕掛けたカメラに自分が映り込んでいるというのはこの事件のように命取りになりますので注意して消去していたつもりだったかもしれませんが、それが復元されることまでは想定していなかったようです。
東京都の迷惑防止条例でも盗撮目的でトイレにカメラを仕掛けるだけでアウトになる規定がありますのでこの事件で盗撮はできていなかったとしても迷惑防止条例違反となります。
東京都 迷惑防止条例 第5条 第1項
- 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
- 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
(イ) 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所(ロ) 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
- 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
現場がトイレですので第2号のイに該当していると考えられます。
今後の捜査で今回のカメラ設置により盗撮行為にまで及んでいた事実や他の余罪が出てくるかどうかによって変わってきますが、盗撮目的でのカメラ設置という盗撮準備行為までに留まるのであれば罰金10万円から20万円程度といったところではないでしょうか。
靴に着けたカメラでスカート内盗撮、児童ポルノ巡り一部無罪 佐賀地裁
県迷惑防止条例違反(盗撮)と児童買春・ポルノ禁止法違反(所持)の罪に問われた長崎県佐世保市、無職の被告(39)に、佐賀地裁は12日、懲役8月(求刑懲役1年)の判決を言い渡した。児童ポルノの所持については「動画データの女性が児童であると立証されているとは言えない」として無罪とした。
盗撮行為を巡っては検察側、弁護側で争いはなく、被告のノート型パソコンに保存されていた動画データの女性が18歳未満の児童と立証できているかどうかが争点だった。
杉原崇夫裁判官は判決理由で、検察側の医師が用いた年齢判定の手法について「統計学的な数字による手法として十分に信用できる」とした一方、「動画データは画質がかなり荒く、判定資料としての品質がよくない。判定が正確にできるかについて、常識的にみて疑いが残る」と述べた。
判決によると、被告は昨年6月23日、佐賀市の大型商業施設2カ所で、氏名不詳の女性ら3人に、靴に装着した小型カメラのレンズをスカート内に差し入れて撮影するなどした。
一部無罪を受け、弁護人は「結論としては納得のいくものだった」と話し、佐賀地検の奥野博次席検事は「判決を精査し、適切に対処する」とコメントした。
引用元 : 佐賀新聞 2020年2月13日 10時3分配信
いわゆる靴カメによる盗撮と児童ポルノの所持に関する事件で一部無罪の判決が出たというニュースです。盗撮行為については懲役8月の実刑判決となっているようですが、児童ポルノの所持についてはそもそも児童ポルノなのかどうかに疑いが残るとのことで無罪となったようです。
おそらく盗撮事件を起こして検挙された被告人から押収したPCに児童ポルノと思しき動画が保存されていたと見られ、警察と検察官はそれを児童ポルノと判断して盗撮と併せて起訴したと思われますが、映っている女性の年齢判定のやり方自体は信用できるとしたものの要は画質が悪いから児童ポルノだとは言い切れないということのようです。
児童ポルノを所持していたことを検察官が立証し切れていないということは「疑わしきは被告人の利益に」ということで無罪となります。
一口に児童ポルノと言っても、例えば映っていたのが小学生女児のような体型であればこうした判決にはならなかったかもしれませんが、女子高生だったりすると画質が悪い場合はどっちなのかハッキリせず判定が微妙になることでしょう。映っていたのが実際に18歳未満の児童だったのであれば被告人にとってはラッキーだったと言えます。
こうしたことになるのは児童ポルノの事件の場合、被害児童の特定は不要とされていることにも起因していると思われます。勿論特定できるのであればそれに越したことはありませんが、被写体がどこの誰だかわからなくても映っているのが児童だと認定されればそれで児童ポルノを所持した罪が成立します。
なお、児童ポルノの所持については今のところそれで逮捕起訴はされない傾向にあり、その多くが罰金刑に留まっています。この事件では盗撮と抱き合わせにはなっていますがそれでも初犯なら公判請求されていなかった可能性が高く、有罪となっている盗撮だけで実刑となっている点を見ても被告人には同種前科等があるのではないでしょうか。
佐賀県の迷惑防止条例では盗撮の罰則について以下のように定めています。
佐賀県 迷惑防止条例 第11条
常習として第3条又は前条の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
検察官の論告で懲役1年の求刑、判決でも懲役8月となっているので通常の第3条(盗撮)違反では法定刑を超えており、この事件においては常習盗撮として起訴されていることが窺えます。初犯で常習盗撮となる例が無いでは無いですが、おそらく盗撮の前科があるのではと考えるのが自然でしょう。
一部無罪となった判決を受けて検察官が不服として控訴するかどうかは気になるところですが、求刑が懲役1年なので検察官の主張が全て認められたとしてもせいぜい10月といった程度ではないでしょうか。