そりゃ治る人も治らない人もいるでしょう
先日の記事で取り上げた東洋経済オンラインの記事について続きが掲載されたようでしたので見てまいりました。
痴漢常習犯は医療で治るのか、治らないのか
1人の更生に1000万円以上費やされるが・・・
「罰金刑で不起訴」など意味不明なことを書いていたり誤字があったりなどすでにコメントで突っ込まれているようですが、前回と同様にやや残念な印象が残る記事でした。前後編に分けてまで掲載している以上、おそらくは性依存という病識への理解を求めている面があるように思っていますが、これではあまり理解は得られないのではなかろうかという気がします。
以下、記事を見て感じた点について述べてまいります。
これ本当にそう思ってるの?
公判で、被告は口を開くたびに反省の言葉を繰り出した。「女性が喜んでいると思っていたが、それはまったくの間違いだった」「嫌がる女性に自分はひどいことをした」「被害女性に申し訳ない」。
これは目にするたびに感じていることですが、本当にみんなこう思っているのでしょうか?
性犯罪者類型別の属性として犯罪白書でも報告されている通り、痴漢や盗撮については高校卒業以上の教育程度の占める割合が他の性犯罪よりも大きく、比較的高学歴と言えます。「女性が喜んでいると思っていた」などといったAVの表現を真に受けたようなことを皆が口を揃えて供述するのかという点について疑問に感じます。
性依存に関する認知の歪みという点を強調するために取り上げた一例なのでしょうが、性犯罪者の中でも痴漢や盗撮などを行う人はある意味ではクレバーに動いています。AVやマンガの世界と現実を切り分けられるくらいの頭はあるはずで、こういったステレオタイプの供述で病気という方向に迎合してある種の矮小化を図っているように思えてしまいます。
病気と言われたらアンタッチャブルとして手が出しづらくなりますから。
被害者、加害者への支援は排反ではありません
「逮捕直後は、本人もなんとかしなければという気持ちが強いんです。“またやってしまった”“もうやらないと警察や家族に誓ったのに”と揺れているときこそ、なぜ再びやってしまったのかを一緒に考え、どうすれば再犯せずに済むかの道筋を作る絶好の機会です」
ここで疑問を感じる人がいるかもしれない。ケア、あるいは支援されるべきは彼らではなく、性犯罪被害に遭った女性ではないのか。
この部分は後に続いている再犯防止のプログラムの性質を強調するためにこういう表現をしていると思われますが、被害者へのケアや支援と加害者への再犯防止指導などは片方しか実行できないものではありませんので、ここで挙げられている疑問自体がナンセンスでしょう。
犯罪被害者へのケアや支援を行う取り組みはすでに存在しており、それが十分かどうかという議論はありますが、加害者の再犯を防止するための取り組みとは別の問題です。性犯罪については加害者がいなければ被害も生まれませんので、それなりの効果が出ていて逆に悪化するという事例が見られない限りは再犯防止の取り組みは100%肯定されるものと言えます。
「ここで疑問を感じる人」を読者層として想定しているなら残念としか言えません。
ドロップアウトした割合を提示しましょう
これまで、延べ800人以上の性犯罪加害者がそのプログラムを受講している。3年以上受講を継続しながら再犯をした人は、現在のところほとんどいない。最も長い人では7年以上通院している。ドロップアウトした人については、追跡調査に限界があるためわからない。
これは因果関係が逆で、再犯していないから受講を継続できているという方が実態に近いのではないでしょうか。プログラムを受講していながら再犯したというのでは人情として継続するのは難しいでしょう。
ドロップアウトしたという人が全員再犯に及んでいるわけではないでしょうが、受講を一生続けるというわけではない以上何らかの区切りはあるはずで、その区切りに至らずにドロップアウトした割合を出さないと延べ800人以上と数字を出している意味がないと感じます。
この記事で掲載した犯罪白書のデータからも再犯する人より再犯しない人の方が多いのはわかっているわけなので、その中でプログラムがどれくらいの効果を上げているのか、どれくらいドロップアウトしてしまうのかといったデータを出してほしいと感じました。
せっかくある程度の効果はあるとされているのに、無意味なのでは?と思われかねません。
その費用、痴漢に限った話じゃないですよね
「痴漢ひとりにかけられる税金がいくらかご存じですか? 彼らが逮捕され、拘留を経て裁判を行い判決が出るまでに、人件費も含めると1000万~2000万円が費やされるといいます。さらに懲役がつくと、その刑務所生活には年間300万円ほどがかかります。再犯するたびに痴漢1人につきそれだけの税金を費やすより、出所後の再犯防止プログラムにおカネをかける必要性を強く感じます」
※原文ママ(誤字あり)
挙げられている金額が正確かどうかはさておき、何らかの罪で逮捕、勾留されて裁判で判決が出るまでの費用で人件費も含めるのであれば痴漢以外でも同じでしょう。
予算として限りがある税金の話をし始めると、再犯率が高く、より少ない回数で懲役に行くことになり、薬物依存としてより広く認知されている覚せい剤などの違法薬物の再犯防止の方におカネをかけるべきという話になりかねません。
上述した支援と同様に排反ではないのでどちらも行われるべきですが、税金には限りがあるので理解が得られにくく筋が悪いように感じます。
被害者への謝罪の念が感じられない
「プログラムでは、“被害者はどう感じるか?”をつねに考えてもらいます。今、あなたが話したこと、あなたの行動を被害者が見聞きしたらどう思いますか?と。更生しようとしている男性は私たちのクライアントですが、同時に被害女性もクライアントとして背景に存在しています。更生する中で被害者の存在をないがしろにすることがあってはならないのです……が、被害者に対する贖罪の念は彼らの中にはほとんどない、と言えます。“被害者の方に申し訳ない”というわりには、実感が伴っていない」
盗撮の再犯要因として筆者が挙げたことと概ね近いように思います。申し訳ないとは言いますがそれは家族などに対してであって被害者に対するものではないというケースです。
この後に続いているように被害者への謝罪や反省の念などを求めていくことはできても本人の実感が伴うようにしていくことは容易ではなく、かえって再犯リスクが高まるとまで言われていますが、そういった一部の特殊な例を持ち出して被害者の心情への理解や反省が必ずしも重要ではないような言い方をするのはいかがなものかと感じます。
もちろんそういったケースもあるのでしょうが、治療の網にかかっていない人や程度の軽い人も含めて多数には重要な概念なのではないかという気がします。
まとめ
タイトルにあるように常習者といった一部に限った話とすれば記事の通りなのかもしれませんが、痴漢においてはそこまでには至らない加害者の方が多いはずで、前回同様十把一絡げにして病気の話を持ち出すのは一般社会からの理解が得られにくいのではと感じます。痴漢する人が常習者だろうがそうではなかろうが被害に変わりはありません。
一方でこういった再犯防止のプログラム自体に一定の効果があるのは確かなようなので、説得力を持たせるためにもう少し具体的な数字などのデータを出してほしいと感じました。一部の常習者にしか効果がない方法と思われてしまってはもったいないと思います。