湊市の市長・音部(髙嶋政伸)を追い詰めた宇崎(間宮祥太朗)と轟(仲村トオル)だったが、ここにきて思わぬ事実に直面する。それは、5年前に起きたバス事故の黒幕は音部ではなく、「どうあがこうとたどり着けない」存在であるということ。5月30日放送の『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)第7話で、ようやく因縁の正体と、事故の真相の大枠が見えはじめる。
【写真】高校生・彩音を演じた伊礼姫奈 “モビリティ・シティ計画”と名付けられたそれは、全国各地に自動運転バスを走らせるという未来的な一大プロジェクトであり、そのテスト地に選ばれたのが5年前の湊市だったという。ところが事故の後、湊市でのテストは突然中断。轟たちの見立てでは、おそらく宇崎の父・裕生(宮川一朗太)が運転していたバスには自動運転のための装置が積まれていたと。そしてその隠蔽を主導したのは、当時の国土交通大臣であり、現内閣官房長官の石倉(杉本哲太)。一気に話が大きくなってきたではないか。
こうして終幕に向けた下地が整えられていくなか、高井戸(三山凌輝)のバックグラウンドが紐解かれていった前回と同様、今回のエピソードでは伊野尾(上白石萌歌)の過去へと触れていく。17歳の時に盗撮の被害を受け、部活を辞め、心に傷を負ったまま10年。彼女がバイクに乗っているのも当時のトラウマから電車に乗ることができなくなったからであり、また第3話で宇崎に言っていた「法を知ることは声を出せるということ」の言葉は、当時の彼女が法曹の世界を目指すきっかけになった弁護士の言葉であると明らかにされる。
そして、宇崎と伊野尾、高井戸の3人は、SNS上で偶然見つけた高校生・三浦彩音(伊礼姫奈)を救うために動きだす。彼女もまた、かつての伊野尾と同じように盗撮の被害に苦しんでいる。しかし事を大きくしたくないと泣き寝入りしようとする彼女に、伊野尾は自分の経験を話す。盗撮画像や動画を販売する闇サイトを運営する「鳥自爺」の正体を突き止めるべく、桐石(及川光博)の協力を仰ぎオフ会へと潜入した宇崎は、そこで参加者たちが“現場”と呼ぶ、彩音をターゲットにした犯罪計画があることに辿り着くのだ。
誰かを焚き付けることで訴訟へと持ち込んでいくのがこのドラマのスタイルだが、これまでのエピソードで描かれた案件はすべて民事の範疇のものであった。しかしながら、今回題材として選ばれる盗撮や痴漢行為は迷惑防止条例違反に該当する刑事事件。いわゆる親告罪ではないものの、現行犯でなければ認知は難しい。そういった意味では被害者を何らかのかたちで“焚き付ける”必要が生じる点でこれまでと共通しているが、“勇気”を伴わなければならないほど心理的負荷が大きく、それを少しでも軽くするためのケアが必要不可欠となる。
そこで劇中では、伊野尾が彩音に手を差し伸べるわけだが、それはかつて伊野尾自身が浅見(りょう)にしてもらったことを彩音に返す格好になる。このような連帯の連鎖は、そもそも性犯罪さえなければ、なのだが、残念ながら一朝一夕でどうにかなるものでもないのが現実である。だからこそ、こうした物語においては、宇崎が深刻そうな顔で「男の俺でもなんかできることあんのかな」と伊野尾に問いかけたように我関せずで終わらせない必要性を説くことであり、かつ闇サイトの連中を一網打尽にするシーンのように、その浅ましい愚行をどこまでも短絡的な犯罪として描写していくしかないのだろう。
リアルサウンド - 2025/05/30 23:30