約1か月ほど前になりますが、パンチラ盗撮動画の販売をきっかけにした名誉毀損事件として以下の報道があり、一部の愛好家や販売者の間で話題になりました。有名な販売者だったことも話題の1つではありましたが、パンチラ盗撮動画の販売で名誉毀損という珍しいケースだったこともトピックとして挙げられます。
兵庫県警は3日、女性のスカート内の盗撮動画をインターネット上で販売し、女性の名誉を傷つけたとして、名誉毀損の疑いで大阪市西区本田、無職の容疑者(28)=大阪府迷惑防止条例違反の罪などで起訴=を再逮捕した。
(中略)
逮捕容疑は大阪市と神戸市の洋服店で20代の女性従業員のスカート内を盗撮した動画を昨年9月~今年2月、「モデルの同意を得ている」とうその説明を付け、サイトで販売するなどしたとしている。
引用元 : 産経新聞2017年4月3日 18時6分配信
※被疑者の氏名部分を修正しております。
年末年始のように、大型連休に関するニュースが多くてまとめられるほど盗撮事件の記事が出ていないので今回はこれについて、どういったフレーズを添えると名誉毀損になりかねないかといったことなどを少し掘り下げてみたいと思います。
なお、特に断りが無い限り以下では被写体の許可等を得ていない、いわゆるガチモノのパンチラ盗撮動画を販売するケースを想定して見てまいります。
パンチラ盗撮動画の販売による名誉毀損の成立
まず、先に触れておくと、パンチラ盗撮動画の販売が即名誉毀損となるわけではありません。これは例えば、元交際相手の裸の画像などをバラまくといった嫌がらせによる名誉毀損事件でも同じことが言えます。
今でこそこうした嫌がらせはリベンジポルノ防止法違反として摘発されますが、この法律ができるまでは名誉毀損などで対応されており、こうしたケースでも交際中に撮影した裸の画像などをそれのみでビラにして撒いたりネット上の掲示板やSNSに投稿するだけでは名誉毀損には該当しませんでした。
人は衣服を脱げば誰でも裸なのでそれだけでは社会的評価を低下させること、名誉を毀損することにはならないという法解釈ですが、これに「売女」「淫乱」などのフレーズを添えて事実を摘示することで名誉毀損が成立します。この場合、摘示した事実が真実か虚偽かは関係ありません。「売女」「淫乱」などが嘘であっても事情を知らない人が見れば「そうなんだ」と思うでしょう。
これは裸の画像がパンチラ盗撮動画に置き換わっても同様で、スカートを着用している女性を下から見れば誰でも同じような画になりますのでそれだけで名誉を毀損したことにはなりません。上述したように名誉毀損の成立には何らかの事実の摘示が必要になってきます。
ここで出てきたのが、上記の記事でも逮捕容疑として挙げられている、モデルの同意を得ているという説明を付けることで「この女性はパンチラ動画の撮影や販売に同意する人物である」という印象を与えかねないという論理です。
こちらに判決がアップされている温泉盗撮動画の販売に関する事件でも同様の論理で名誉毀損が成立していますが、パンチラ盗撮動画の販売でもついにこれが適用されたということが話題の1つになっていました。
避けたいフレーズ
「この女性はパンチラ動画の撮影や販売に同意する人物である」という印象を与えかねないという論理であれば、その事実の摘示にあたっては「モデルの同意を得ているという説明を付ける」以外にもありそうだということで確認してみたところ実際にそうしたフレーズがいくつかあり、それらについては名誉毀損が成立する余地があるので掲載を避けるべきフレーズと言えます。
それらを1つずつ挙げながら見てまいります。
被写体の同意を得ているという説明
これは上記で例示しているものと同じですが、パンチラ動画の撮影や販売に同意する人物であるという印象を与えかねないフレーズであれば言い回しを変えたところで同じことです。例えば「合意している」「承諾している」「了承している」などといったものが挙げられるでしょうか。
その説明を書いた人、つまり販売者の意図がどこにあろうと被害者や第三者、捜査機関が見たときにそうした誤解が生じかねないフレーズだと判断されれば名誉毀損となる可能性がありますのでこうした説明は避けた方が良いと言えます。
被写体をモデルと呼称する説明
これは古くから用いられている表現なので、特に盗撮モノの画像や映像の愛好家や投稿者、販売者においては違和感無しに被写体をモデルと呼ぶことが多々見受けられますが、これも避けた方が良いフレーズと考えます。
世間一般でモデルと言えば、公開や販売を前提として写真や映像などを撮影させるものだという共通認識があります。盗撮という違法行為による画像や映像ではないという建前が影響してこうした表現が用いられていると見られますが、盗撮モノの世界においてどういう意味合いであろうと被写体をモデルと呼ぶことで世間一般にそうした誤解を与えてしまえばアウト、ということになります。
(下着等を)撮らせてくれたという説明
これも説明としてよく見られる類のもので、非常に細かいところではありますが、「撮らせてくれた」は主語が被写体であることから場合によっては被写体が撮影に協力的な姿勢だという印象を与えかねません。
他に「足を開いてくれた」「(撮りやすいように)立ち止まってくれた」などといったフレーズもすべて同様です。上述しているように誤解の余地があるフレーズは避けた方が良いでしょう。
被写体の年齢を18歳以上と断定する説明
これは児童ポルノ禁止法等を意識したものと見られますが、こちらの記事でも触れているようにパンチラ盗撮動画では児童ポルノに該当しないので実際に被写体が18歳以上でない限りあまり意味が無いものと思われます。
行き過ぎて「18歳以上と確認している」とまでしてしまうと、上述した「同意を得ている」というフレーズから来る誤解につながることになります。そうなるとやはり避けた方が良いということになるでしょう。
最後に
「この女性はパンチラ動画の撮影や販売に同意する人物である」という印象を与えかねないフレーズとしていくつか挙げてまいりましたが、これらを避ければ100%安全というわけではありません。別の法解釈による名誉毀損の成立も今後出てくるかもしれません。
極端な話としては説明を何も書かなければ言葉尻を捕らえられることも無くなるのですが、商売としてそういうわけにもいかない場合もあるでしょうし、販売サイトの利用規約に沿うために必要になってくるフレーズもあるでしょう(そうした盗撮動画を販売するそもそもの是非についてはここでは論じません)。
名誉毀損はこうしたワーディングの問題でもありますので、説明を付すにあたっては知恵を絞ることも必要になってくると感じています。