盗撮で逮捕された後の刑事手続き上の実態 (後編)
逮捕された後の一般論としての流れは検索すればいくらでも出てきますが、ここでは盗撮で現行犯逮捕されたケースに焦点を当て、その中での刑事手続きと弁護士活動に具体的に触れてまいります。
逮捕された後はどうなるのか?
まずは刑事手続きの一般的な流れを以下にまとめておきます。なお、カッコ内の時間または期間は法律で定められているタイムリミットで、この時間内または期間内に次のステップへ進まない場合は釈放されることになります。
※前回記事からの続きとなります。
刑事手続きの流れ
- 逮捕 (48時間)
- 検察官送致、勾留請求 (24時間)
- 勾留質問
- 勾留 (最長20日間)
- 処分決定
- 勾留 (概ね2か月前後)
- 裁判
今回は5から7まで見てまいります。
5. 処分決定
検察官が供述調書などの書類や証拠品等を総合的に検討して処分を決定します。まず大きく分けると起訴するか不起訴にするかに分けられます。起訴する場合は裁判所に対して公判請求または略式命令請求を行います。
公判請求はその名の通り公開された法廷での審理を求める起訴で、盗撮事件ではそれまでに2回3回と捕まっている前科がある再犯のケースなどで公判請求されることが見込まれます。勾留されている場合は公判請求された後も勾留が続きます。
略式命令請求は公判を開かず、書面の審理で刑を言い渡す簡易な裁判を求める起訴で、盗撮事件では多くのケースで略式命令による罰金刑を受けることになります。それまで勾留されていても罰金を納付することで釈放されます。
不起訴の場合も嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予などに分かれますが、盗撮で行為を認めている場合は概ね起訴猶予処分ということになります。起訴猶予は被疑事実が明白でも被疑者の性格や境遇、犯罪の軽重や犯罪後の状況などから検察官の裁量によって裁判を求めないことで、示談が成立しているかどうかなどが大きく影響してきます。
逮捕後や検察官送致後に続いて釈放されるかどうかが決まる大きなポイントですが、それまでの捜査で明らかになった事件の内容や被疑者本人の態度等、または示談が成立しているかどうかなどの帰結と言えますので、それらが芳しくない状況では期待をかけてもどんでん返しはあまり見込めません。
弁護士としては示談が成立していようがしていまいが検察官へ意見を出してできるだけ寛大な処分を求めていきます。罰金刑が見込まれる場合は起訴猶予になるように、公判請求が見込まれる場合は罰金刑になるように働きかけていきますが、盗撮事件の場合ではやはり示談が成立しているかどうかが1つのポイントになるでしょう。
6. 勾留
被疑者段階での勾留とは異なり、起訴された後は被告人としての勾留へ切り替わります。引き続き身柄が拘束される点においては違いはありませんが、前者ではタイムリミットが10日間(延長しても最長20日間)だったところ、ここからはそれが2か月間に、さらに1か月ごとに勾留期間を更新できるということになって非常に長くなります。
盗撮事件で行為を認めていてその点に争いがない場合は裁判まで概ね2か月前後は勾留が続くことになりますが、起訴された事件以外に余罪がないなどでそれ以上取り調べを行う必要がない場合は警察署の留置場から拘置所などへ移送されることがあります。そのときの人員の状況などにもよるので必ず移送されるわけではありません。
余罪があってその分の取り調べがある場合はそのまま警察署の留置場で過ごしながら取り調べを受けることになります。また、その余罪について再逮捕される場合は起訴後であっても逮捕の手続きまで戻ってもう一度すべての手続きを踏んでいきます。ただし、余罪が明らかになっていても再逮捕されるかどうか、また、再逮捕の有無に関わらずそれが追起訴されるかどうかはケースバイケースです(余罪の取り調べがあっても再逮捕・追起訴の有無は4パターンすべてありえる)。
盗撮事件では逮捕されている事件以外の余罪の証拠がカメラや自宅のPC、ハードディスクなどに残されているケースが多々ありますが、それらについて起訴できる証拠が押さえられるとしてもすべてに対して再逮捕されるわけでも追起訴されるわけでもありません。常習性や悪質性が極めて顕著な場合や前科が多く盗撮(迷惑防止条例違反)1件だけでは不十分と判断される場合などには再逮捕や追起訴されることが見込まれます。
被疑者としての勾留と異なる点として保釈が認められることがあります。住居の指定や保釈保証金の納付などを条件として身柄の拘束を解く制度で、これは被疑者には認められておらず、起訴後の被告人にしか認められていません。
一般的には弁護士が保釈請求しますので、取り調べなどが一通り済んだこの段階における弁護士の仕事としては比較的大きなものとなります。弁護士が裁判所へ提出する保釈請求書の説得力が可否に影響してきますので腕が問われるところです。
勾留請求の却下率が近年増加傾向にあるのと同様に保釈率も増加傾向にあり、平成17年には約12%だったものが平成27年には約25%まで上昇しています。盗撮事件では「罪証隠滅のおそれがある場合」の該当性が保釈を認めるかどうかのポイントになると考えられますが、この点も踏まえて弁護士が作成する保釈請求書によってキッチリ説明できれば保釈が認められる可能性が高くなると言えます。
7. 裁判
公開の法廷で裁判官による審理を受け、判決によって刑を言い渡されます。裁判の具体的な流れについては検索すればいくらでも出てきますのでここでは割愛します。勾留されている場合は警察署の留置場または拘置所から、勾留されていない場合は自ら直接裁判所へ出頭します。
盗撮事件で現行犯逮捕されている場合はほとんどのケースで行為は認めていて事実関係に争いはありませんので審理自体は1回目の裁判で終わり、2回目で判決となるでしょう(即決裁判の場合は1回目で判決まで)。1回目から2回目までの期間は概ね1週間前後です。
元々罰金刑では済まないと判断されて公判請求されていますので、ここでの判決が罰金刑となることはあまりありません。公判請求されるのは2回3回と同種前科がある場合が多いので裁判が初めてであれば執行猶予付きの懲役刑、そうでなければ実刑が見込まれます。
一方、弁護士としては裁判に弁護人として出廷することが基本的に最後の仕事になるでしょう。その名の通り被告人を弁護するのが仕事ですが、とどのつまりは「これだけ反省している」「なぜ今後再犯しないと言えるのか」といったような点について説得力を持たせるのが大きな仕事なので、被告人に対して甘いことはあまり言いません。場合によっては尋問してくる検察官よりも厳しいことを言います。
ここまでのまとめ
処分が決定し、被告人としての勾留から裁判までの流れを追ってまいりました。前編では72時間、中編では20日間だった期間がさらに増えて約2か月間となり、ここまで来てしまうと元の生活に与える影響も非常に大きくなってきます。また、捜査が一通り終わり、示談交渉もないとなると、保釈が認められない限り起訴後の勾留期間は極めて無駄な時間を過ごすことになります。
弁護士のウェブサイトなどでは仕事なので被疑者または被告人に有利に見える様々な手が挙げられていますが、どの段階においても虫の良い話はありません。もちろん知らないよりは知っていた方が、弁護士はいないよりいた方が良いですが、弁護士を付けても、示談で大金を提示しても、何をしてもことごとく拒否されてうまくいかないケースは普通にあります。ヤケになる必要はありませんが、なるようにしかならないと考えることも必要です。