盗撮の再犯率は高いのか?
盗撮も含めて性犯罪の再犯率は高いとよく言われますが、実際はどうなのでしょうか。法務省が報告している犯罪白書のデータを確認してみます。
結論 : 盗撮の再犯率は高い
結論から申し上げますと、データで確認できる再犯率として盗撮は高い水準にあるようです。
平成27年版犯罪白書の性犯罪者類型別再犯率によると、盗撮型として類型された者に性犯罪前科がある割合は28.6%、性犯罪以外の前科がある割合も含めると36.4%となっており、痴漢に次いで多いことがわかります。ただ、これは「盗撮→盗撮」と再犯しているケースだけではなく、それを含んだ「何らかの性犯罪→盗撮」というケースの数字なので盗撮だけを繰り返しているかどうかまではここからは読み取れませんが、すでに捕まった人を対象にした調査であり、一度捕まったことで手口が巧妙化して捕まりにくくなる可能性などを考慮すると実態から離れた数字ではないと見られます。
類型別再犯率をさらに出所受刑者・執行猶予者の区分別にしたものを見ても盗撮の再犯率は高いことがわかります。
なお、犯罪白書では盗撮について以下のように締められており、上記グラフで一番大きい割合を占めている「性犯罪再犯(条例違反)」は盗撮による迷惑防止条例違反であろうことが示されていますので、盗撮の再犯を繰り返すケースが多いことがわかります。
再犯率は36.4%で,再犯者の4分の3は条例違反による再犯であり,性犯罪再犯(刑法犯)ありの者はほとんどいない。
(中略)
盗撮型には,複数回の刑事処分を受けているにもかかわらず,条例違反を繰り返している者が多い。
なぜ再犯率が高いのか?
盗撮に限らず窃盗や覚せい剤の使用を繰り返しているようなケースでは「もはや病気」とも言われますが、それでは身も蓋もないので再犯の要因を少しでも具体化してみたいと思います。なお、覚せい剤等への依存と同様に、盗撮も含めた性犯罪について「性依存症」として医学的な処置を行うアプローチも存在しており、これについては医師をはじめとした専門家に任せておくことにします。
筆者はそういった専門家ではありませんのでこれまで触れてきたケースなどから検討してみますが、盗撮に関して再犯へのハードルが下がり、実際に再犯へ及んでしまう要因としては以下があると考えています。
個人的に考える盗撮の再犯要因
- バレなければ誰も傷つかないという思い込み
- 反省が行われない犯行形態
これらを1つずつ見ていきます。
バレなければ誰も傷つかないという思い込み
盗撮している人、特に常習化している人では多くが考えていることかもしれませんが、バレずに盗撮を行い、ネット上で公開するなどせず自分1人で撮影したものを見ているだけなら確かにその通りかもしれないと思わされてしまうことがあります。
また、同様の思い込みは覚せい剤事案で捕まった人にも多く見られており、「家の中で自分1人が使う分には誰にも迷惑をかけていない」といったものです。実際には覚せい剤を使用した状態で外へ出てしまって事件を起こすケースもあるのですが、そういった点については「自分は大丈夫」という反応がよくあります。
これは「バレなければ誰も傷つかない=バレたら誰かが傷つく」の右辺の可能性を限りなく矮小化している状態であり、規範意識が鈍麻している状態であると考えます。
殺人などの重大犯罪は別として、盗撮も含めた犯罪行為というものは最初の1回2回で捕まるものではありません。たいていは何度も繰り返し、そのうち誰かが目撃したり被害届が出て警察が認知することとなったりした結果としてお縄になるものです。
何度も繰り返しているということはその間は捕まっていない状態、つまり犯罪に成功し続けている状態を保っていると言えますので、その成功体験が積み上がってくることでバレたときのリスクが頭の隅に追いやられていきます。「自分は大丈夫」という状態です。
また、常に持ち歩いているスマートフォンなどでもできるように、盗撮はいわばお手軽な面もあります。強盗や強姦を100件繰り返していたら相当な大事件ですが、盗撮を100件繰り返しているというケースはそれほど珍しいものではなく、比較的成功体験を積み上げやすい犯罪であると言えます。
しかし結局は第三者がたまたま目撃するなどして捕まるのですが、しばらくの間は反省していたとしても時間の経過とともに風化していき、その一方でかつて積み上げた成功体験は根強く残り続けます。パチンコで大負けしても大当たりしている瞬間が忘れられずに続けてしまうギャンブル依存症のようなものだと思えば確かに「病気」と言えるかもしれません。
すると次はどうなるかというと、よく見られるのが「やり方が悪かった」として手口が巧妙化したり、第三者に取り押さえられた場合などでは「バレなければ誰も傷つかない→被害者にはバレなかった→バラしたのはアイツであって自分ではない」として責任転嫁したりなどです。
そして場所や手口を変えた上で再犯に及んでしまうのであろうと考えます。
反省が行われない犯行形態
盗撮は他の犯罪と比較して「反省」が行われにくい犯行形態であると考えています。
例えば強制わいせつや痴漢など人に対して直接的に行う犯罪の場合、行為中に被害者から何らかの反応があります。被害者の反応も加害者の受け止め方も十人十色で、その反応をさらに行為を繰り返す材料として受け止める人もいるでしょうが、いずれにしても被害者からの反応がある場合はそのときの行為を反芻することはしているでしょう。
それは「やり方が露骨だったかもしれない(から改めよう)」だったり「今回は途中まで追いかけられて焦った」だったりするでしょうが、中には反応にショックを受けてそれ以降は止めたというケースも(レアでしょうが)あるかもしれません。犯罪者とはいえ人間なので被害者から何らかの反応があればその反応に対して何らかの感想は持つはずです。
ところが盗撮は誰にもバレないことが前提になっているので、うまくいっている限りその「反省」は行われません。行為後に残るのは「うまく撮れたか否か」「次により良く撮るにはどうするか」といった歪んだ上昇意識だけでしょう。
もちろん盗撮でも被害者本人や第三者に見つかった(けど逃げ切った)というケースはありますが、他の犯罪でそういった反応があるケースと比較すると圧倒的にレアなので、もしそういったことがあっても積み上げた成功体験によって「運が悪かった」「場所が悪かった」と矮小化されます。
こうなると被害者に対しても「うまく撮れたか否か」のような感想しか持たなくなります。反応がないことが普通なので当然と言えば当然です。
そうすると捕まったときに出てくる反省や謝罪は家族や勤務先、友人などに対してであって、被害者に対する謝罪の念となるとピンと来ません。もちろん盗撮がバレて被害を与えたことで申し訳ないという言葉は出てくるでしょうが、そもそも盗撮の場合は過去の被害者の方が圧倒的に多いわけで、盗撮に気づいてすらいない過去の被害者への謝罪となるとピンと来ないどころの話ではないでしょう。
過去の被害者の方が多い点については盗撮に限った話ではありませんが、上述しているようにやはり件数に違いがあり、過去の分が事件化されているかどうかにも差が出てきます。強制わいせつなどになると被害届が出ていることも多く、別の事件で捕まったときには事件化されていた過去の分も別個に立件されることは珍しくありません。事件化されていなくても盗撮と比べると件数は少なくなりがちですので被害者1人1人に思いを至らせることは難しいことではないでしょう。
ですが盗撮の場合、特に常習化しているケースでは盗撮に気づいてもいない過去の被害者1人1人に、というのは困難です。取り調べや裁判などの過程においては事件化されていない過去の被害者への謝罪は求められませんので、事件化されている分の被害者に対してのみ謝罪の言葉を口にする歪な状態になります。そして捕まったときの体験も時間の経過とともに風化し、「運が悪かった」のような思考が復活してくることによって再犯へのハードルが低くなっていくと見ています。
まとめ
必ずしも盗撮の再犯者全員に当てはまる要因ではないと思いますが、これまで触れてきたケースを見ると少なからず上述したような思考があります。医学的なアプローチでは認知行動療法でいうところの「認知の歪み」として説明される部分もあるかもしれません。
盗撮は比較的罰則が軽い犯罪ですが、再犯によって実刑判決を受けるケースは珍しくありません。「自分は大丈夫」という考えはまず間違いなく誤りですので注意が必要です。