盗撮動画の配信容疑でサイト運営会社従業員ら十数人を逮捕
2016年10月中旬、下記の事件が報道機関より発表されました。有名アイドルグループのメンバーが被害者に含まれている(可能性があった)として一部で大きな話題となりました。
女性を盗撮したわいせつな無修正動画を有料アダルトサイトで配信したなどとして、福岡県警が沖縄県のサイト運営会社の従業員ら十数人を、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管やリベンジポルノ防止法違反の疑いで逮捕していたことが、捜査関係者への取材で分かった。
引用元 : 朝日新聞 2016年10月18日 23時57分 配信女性タレントの盗撮動画をインターネットサイトに配信したとして、福岡県警がサイトを運営する男2人をリベンジポルノ防止法違反と名誉毀損(きそん)の疑いで逮捕していたことが18日、捜査関係者への取材で分かった。このサイトに関係して他に12人の男女がわいせつ動画データを販売目的で保管した罪で起訴されており、県警は組織的に盗撮動画を販売していたとみて調べている。県警によると、ネット上のサイトに公開されたわいせつ動画を巡り、リベンジポルノ防止法を適用するのは珍しいという。
引用元 : 西日本新聞 2016年10月19日 10時26分 配信会社は五つのサイトを運営し、トイレや更衣室で女性を盗撮した動画など数千本を配信。「芸能人」などとして被害者を特定できる情報も掲載していた。配信にはスウェーデンにあるサーバーが使われていた。
引用元 : 朝日新聞 2016年10月19日 21時22分 配信
主に女性を被害者とする盗撮動画といっても大きく分けると2つ種類があり、1つは女性のスカート内にカメラを差し向けて下着等を撮影するものと、もう1つはお風呂やトイレなどにおいて衣類の一部またはすべてを脱いでいる女性を撮影するものとなります。
報道からは事件の細部まで追えないので前者が皆無だったかどうかはわかりませんが、上記の事件は後者を主な対象としたものであることが窺えます。前者と後者では適用される可能性のある罪が大きく異なるので一緒くたに混同しないよう注意して見ることが必要です。
この事件のポイント
盗撮動画をネット上で公開するということがそもそも問題と言えばそれまでなのですが、検索すると膨大な盗撮動画が見つかる一方でこうして事件となって報道されているポイントについてまとめておきたいと思います。とはいえ報道で触れられている部分に限ると「リベンジポルノ」という点に特殊性がある以外はそれほど珍しい内容ではなく、ポイントとしては以下と見ています。
この事件のポイント
- 無修正動画を配信していた → わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管
- 被害者を特定できる状態で配信していた → リベンジポルノ防止法違反、名誉毀損
- サーバーは国外にあったが大元の配信や運営は国内からだった
これらについて1つずつ見てまいります。
無修正動画の配信
これは刑法175条に規定される「わいせつ物頒布等の罪」によるもので、摘発されること自体が珍しい罪ではありません。市販されているAV等でも局部へのモザイク処理などをしないまま販売すれば同様に摘発されますし、いわゆる裏ビデオ・裏DVDの販売や個人撮影のネット配信などでの摘発を割と目にするものです。
海外配信など一部特殊な例外があるのでそれについては後述しますが、この事件では「トイレや更衣室で女性を盗撮した動画など」にモザイク処理等をせずに配信していたものと見られ、沖縄に運営拠点があったことから実質的な配信は国内からだったと見られますので普通に国内法が適用されます。ここまではまったく珍しい事件ではありません。
被害者を特定できる状態での配信
この点がこの事件が大きく報道されるようになったポイントであろうと見られます。
リベンジポルノ防止法は正しくは「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」と称され、ざっくり言いますと「撮影対象者が、第三者が閲覧することを認識しないまま撮影した画像や映像などを、第三者が撮影対象者を特定することができる方法で公開したり提供したりしてはいけません」というものです。ちょっとややこしいですが、「リベンジポルノ」で一般的に想像されるニュアンスと違っていそうな点としては「被害者との関係性は問われない(被害者と面識がなくても成立する)」というところでしょうか。
また、「第三者が撮影対象者を特定することができる方法」という部分に若干クセがあり、これは「実際に特定可能かどうか」は問われません。少なくとも顔がハッキリ写っていないと撮影対象者が誰なのかわからないような気がするかもしれませんが、現在の法解釈ではホクロの位置や髪型、後ろ姿、背景などからでも関係者が見て特定できれば十分とされています。要するに、この法律では「第三者が撮影対象者を特定することができる方法」が割と曖昧に設定されています。
しかしこの事件では、販売前の宣伝の時点から誰でも見れる広告として被害者の名前やプロフィールを掲載しており、「関係者が見ればわかる」どころか広告に掲載されていた名前を検索すれば誰でもわかるようにされていました。一部伏せ字はされていましたが「安〇晋三」程度のものでしたので伏せている意味はほとんどありません。
しかもそれがトイレなど女性が最も見られたくない場所での映像であればリベンジポルノ防止法違反、名誉毀損となるのは避けられないだろうと考えられます。
運営拠点が国内
特にアダルト関連の配信で「海外サーバー安全神話」のような宗教を信仰している人がいまだに見受けられますが、一部の特殊な例外を除いて、少なくとも国内居住者による配信においては安全でも何でもありません。国内法が適用されますので局部へのモザイク処理等を行わない無修正画像や動画を配信すれば上述の「わいせつ物頒布等の罪」が適用されることでしょう。
一部の無修正動画の配信業者では、無修正が違法ではない国において海外法人を置き、海外居住者が運営し、海外にサーバーを設置し、海外からアップロードするなど国内法が適用されないあらゆる方法を組織的に行っています。国内居住者が無修正動画を海外サーバーにアップロードしたり、海外にデータを持って行ったりする程度ではアウトになります。
この事件の運営会社もそういった方法を採っていると思われていましたが、報道内容からわかるように実は拠点が沖縄にあり、「海外サーバー安全神話」以前の問題でした。このやり方ではサーバーがスウェーデンにあろうがどこにあろうが関係なく国内法で違法ということになります。
まとめ
上記ではざっくりとしか触れませんでしたが、リベンジポルノ防止法において「私事性的画像記録」は以下のように定義されています。
私事性的画像記録の定義
- 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
- 他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
これは「児童」が「人」になっているだけで、盗撮に関する量刑の傾向に掲載している児童ポルノの定義と同じです。ですので同記事で記述しているように、盗撮というワードで一般的に想定されるスカート内にカメラを差し向けて撮影するといういわゆる「逆さ撮り」には(今のところ)適用できないと思われます。
この事件ではリベンジポルノという点以外はそれほど珍しい内容ではありませんでしたが、報道されている内容からだけでも1つずつ分けて考え、「盗撮」という括りで一緒くたにして混同しないようにすることが必要です。