盗撮における特殊な不起訴事例
盗撮事件においては不起訴となることがしばしばありますが、その多くは初犯だったり被害者との示談が成立していたりといったケースです。しかし、盗撮の前科が複数あるなど不起訴になるとはとても思えないような場合でも不起訴になっているケースがありますので一部触れておきます。
なお、盗撮に限らず事件に関する事情というのは千差万別ですので同様の事態に陥っても同じように不起訴になるとは限りません。また、初犯や2回目など、被害者との示談成立で不起訴が見込めるようなケースでは変に奇をてらった対応は行わない方が良いでしょう。
あくまで筆者が当事者から直接聞いている一部の特殊な事例として、今回は被害届が出なかったケースについて見てまいります。
被害者が被害届を拒否して不起訴
この事件の要点としては以下です。
この事件の要点
- 被疑者は盗撮の前科が複数あり、服役経験もある。
- 電車内でスカート内を盗撮していたところ、他の乗客に見つかってその場から逃走。電車から降りたものの、追ってきた乗客に取り押さえられて現行犯逮捕。
- 被害者本人が被害届や告訴を拒否し、そのまま勾留期限を迎えて不起訴処分へ。
事件の概要
まず、被疑者は盗撮で何度も捕まっており、さらにはそれらが積み重なって刑務所で服役した経験もあります。こちらの記事で触れているように何度も繰り返していると実刑判決を言い渡されて刑務所へ行くこともありますが、一度服役したからといってそれまでの分がリセットされるわけもなく、むしろ服役経験があるにも関わらずという点が重視されてそれ以降も実刑判決を受けることが多くなります。
この事件では被疑者が電車内において被害者の女性のスカート内を盗撮、いわゆる逆さ撮りしていたことに乗り合わせていた他の乗客が気づいて見咎めたとのことです。被疑者はその場から逃走、折よく電車が駅に着きドアが開いたのでホームへ出て逃走を続けたものの、追ってきた乗客に取り押さえられて迷惑防止条例違反で現行犯逮捕されました。
動かぬ証拠として盗撮したデータが残されており、被疑者も否認や黙秘などをすることなく犯行を認め、目撃者の証言などもあったので通常はこのまま迷惑防止条例違反事件として公判請求、実刑判決が見込まれる事件でした。
被害者が捜査協力せず不起訴処分へ
被疑者側の捜査は進んで証拠固めされていき、自宅への家宅捜索によりPCやハードディスク等も押収されたとのことでした。また、過去の前科を考慮すればまた実刑判決を受けるのは免れないだろうと本人も諦めていたそうです。
ところがスカート内を盗撮されていた当の被害者本人が被害届の提出や告訴を拒否し、捜査協力もしなかったことで被害者側からの証拠が出ませんでした。そのため、勾留延長されて20日間身柄を拘束されていたものの、そのまま勾留期限を迎え、不起訴処分となって釈放されました。
刑事や検察官から処分理由としてそう聞かされたとのことですが、被疑者にとって有利な点がそれ以外にない状況だったので理由としては間違いないと見られます。盗撮で複数の前科があり、服役経験まである被疑者だったのでこの処分はある意味奇跡的とも言えます。
この事件の処分について
迷惑防止条例違反は被害者の告訴がなくても起訴できる非親告罪です。そのため、この事件でも検察官がやる気になれば公判請求することは理屈上は可能だったと思われます。
しかし、非親告罪とはいえ迷惑防止条例違反の場合は実態として被害者からの被害届や告訴を重要視しているのか、それらがない場合は不起訴にせざるを得ないのかもしれません。被害者がそれらを拒否する中でも20日間勾留していたということは起訴、公判請求するつもりで捜査協力の交渉を根気強く続けていたと見られます。
示談が成立した場合はそれらの効力がなくなって不起訴になるとも言えますが、何度も再犯しているという被疑者の事情もひっくり返せるほどの効力があるのかもしれません。
一方で、被害者が被害届の提出や告訴をするかどうかは事前にわかることではありませんし、それを頼めるわけもなく通常は示談交渉を通じて行うしかないことです。あくまで偶然起きた事例ということになります。
まとめ
盗撮で逮捕されて証拠も揃っているのに、被害者からの被害届や告訴、捜査協力が一切なかったために不起訴処分となった事例です。それだけ被害者の訴えというものの力が大きいとも言えます。
被害者に対するこういった手続きや事情聴取などが面倒と感じる女性も確かにいて、それが面倒だから何もしないという女性の存在も聞き及びます。しかし、それが多数派とも感じられませんし、被害届がなければ一律で不起訴なのかと言われると違和感があります。
こういった事例をアテにして盗撮を続けるのはナンセンスですし、被害者となった場合も逃げ得を許さないように被害を訴えていってほしいと感じます。
明日はまた別の事例について触れてまいりたいと思います。