先週報道された盗撮に関するニュースに触れてまいります。
店のトイレに盗撮カメラ 宇都宮市係長逮捕
栃木県宇都宮市の飲食店のトイレに盗撮目的でカメラを設置したとして、宇都宮市の係長の男が逮捕された。
栃木県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されたのは、宇都宮市の市民税課の係長。警察によると、容疑者は先月1日、宇都宮市内の飲食店にある男女兼用のトイレに小型のビデオカメラを設置し、盗撮しようとした疑いが持たれている。
従業員が清掃中に小型カメラを発見し、警察が店の防犯カメラ映像などを調べたところ、容疑者が浮上した。小型カメラは一辺が3センチ程度のもので、粘着テープを使ってトイレの洗面台にくくりつけられたものの、落下していたという。
調べに対し、容疑者は容疑を認めているということで、宇都宮市は厳正に対処したいとしている。
引用元 : 日本テレビ 2019年12月10日 10時41分配信
※被疑者の氏名部分を修正しております。
市役所に勤める公務員によるトイレ盗撮事件ですが、逮捕容疑は盗撮目的でトイレに小型カメラを設置した疑いに留まっており、今のところ実際に盗撮するに至ったというその先の段階へは及んでいません。
しかし、先月1日の事件発覚から今回の逮捕までに約1か月半経っているということは押収したカメラに記録された映像を確認することはできているはずなので、現時点で盗撮目的でのカメラ設置容疑に留まっているということは実際に盗撮した映像が記録されておらず盗撮に至った証拠は無いということなのかもしれません。
小型カメラは一辺が3cm程度の小さいサイズの物だったようですが、洗面台に粘着テープで貼っていたのが取れたのでしょう、落ちてしまっていたカメラを従業員が発見したという何とも間抜けな顛末です。さらにはトイレに出入りする様子も防犯カメラに捉えられていたようで、そこから特定されて逮捕に至っているようです。
粘着力の弱いテープを使っていたのか、又は水回りですので何かの拍子に濡れて粘着力が弱まってしまったのか、発覚のきっかけだけ見るとお粗末ですが取れていなかったらどうだったのかという点はやや気になります。得物や手口からは今回初めてやったという様子が窺えないのでカメラが取れさえしなければ上手い設置だったのかもしれず、そうだとすると余罪が出てくる可能性もあるでしょう。
なお、現に逮捕されているので迷惑防止条例違反に当たるかどうかについて疑問は無いところですが、栃木県の迷惑防止条例ではトイレにおける盗撮行為、及び盗撮目的でカメラを設置する盗撮準備行為を処罰する規定がありますので実際に盗撮できていなくてもカメラを仕掛けただけでアウトということになります。
栃木県 迷惑防止条例 第3条
- その性的羞恥心を害し、又は嫌悪の情を催させるような方法で、衣服その他の人が身につける物(以下この条及び第八条において「衣服等」という。)の上から、又は直接に、他人の身体に触れること。
- 衣服等で覆われている他人の下着若しくは身体(以下この条において「下着等」という。)をのぞき見し、若しくは撮影し、又はこれらの行為をしようとして他人の衣服等をまくり上げ、若しくは手鏡、写真機等を他人の衣服等の下に差し出す等下着等をのぞき見し、若しくは撮影することができる状態にすること。
- 衣服等を透かして見ることができる写真機等を使用して、下着等の映像を見、又は撮影すること。
- 前三号に掲げるもののほか、その性的羞恥心を著しく害し、又は不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること。
何人も、みだりに、公衆浴場、公衆便所、公衆が使用することができる更衣室その他の公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の他人の身体を撮影し、又は撮影する目的で、写真機等を設置し、若しくは当該状態の他人に向けてはならない。
何人も、みだりに、教室、事務所その他の特定かつ多数の者の用に供される場所又は貸切用のバスその他の特定かつ多数の者の用に供される乗物における下着等をのぞき見し、若しくは撮影し、又は当該下着等を撮影しようとして写真機等を他人の衣服等の下に差し出す等当該下着等を撮影することができる状態にしてはならない。
この事件では現場が飲食店のトイレですので「公衆便所」「公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所」に当たると考えられ、盗撮する目的でカメラを設置する行為への規制もありますので第2項に該当していると思われます。
盗撮目的でのカメラ設置や建造物侵入までに留まる事件で逮捕し、その後の家宅捜索で押収した自宅のPC等から発覚した余罪として別の盗撮事件が立件されることもよくありますのでそうした余罪が出てくるかどうかによって変わってきますが、実際に盗撮した余罪が無くこの事件のみであれば10万円から20万円程の罰金で済むのではないでしょうか。
浴室などの女性盗撮、2人書類送検 岡山県警、改正迷惑行為防止条例を適用
岡山県警は10日、盗撮行為の禁止場所として新たに個人宅などを加えた10月1日施行の改正県迷惑行為防止条例を適用し、浴室内の女性を撮影したなどとして、これまでに男性2人を書類送検したと発表した。
改正条例は、「公共の場所または公共の乗り物」に限っていた盗撮行為の規制対象として、個人宅の浴場やホテルの客室といった服を脱いだ状態でいる可能性のある場所を新たに追加した。
県警によると、書類送検したのは、1人がコーポの通路に面した浴室の窓から入浴中の女性をスマートフォンで撮影、もう1人は窓から居室内の女性の様子を盗撮していた疑いという。
県警生活安全企画課は「侵入される危険もあるので、入浴や就寝時は窓やカーテンを閉め、施錠も忘れずにしてほしい」としている。
引用元 : 山陽新聞 2019年12月10日 18時31分配信
こちらは具体的な盗撮事件のニュースではありませんが、岡山県において盗撮行為に関する規制が強化された改正条例が施行され、新たに強化された点に係る事件について既に2件書類送検しているという記事です。先々月からの施行ですので出来立てほやほやです。
改正の概要としては公共の場所に限られていた盗撮行為の規制場所に学校や事務所、個人の住居等が加えられたというものです。盗撮目的でカメラ等を向けたり設置したりする盗撮準備行為については今回の改正前から規制される行為の対象に加えられていましたので今回は主に規制場所の拡大ということになります。
岡山県 迷惑行為防止条例 第3条
- 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物(次号及び次項において「衣服等」という。)の上から又は直接人の身体に触れること。
- 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物において、通常衣服等で覆われている人の下着又は身体(以下この条において「下着等」という。)をのぞき見し、又は写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下この条において「写真機等」という。)を用いて撮影し、若しくは撮影する目的で写真機等を差し向け、若しくは設置すること。
- 前2号に掲げるもののほか、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。(次項及び第3項に該当するものを除く。)
何人も、正当な理由がないのに、衣服等を透かして見ることのできる写真機等を用いて、公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物にいる者の下着等の映像を見、又は撮影してはならない。
何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる者の下着等を見、又は撮影する目的で、その姿態をのぞき見し、若しくは写真機等を用いて撮影し、又は写真機等を差し向け、若しくは設置してはならない。
改正前の同条は過去の記事にも掲載しているので見比べることができますが、この記事で取り上げられている「コーポの通路に面した浴室の窓から入浴中の女性をスマートフォンで撮影」「窓から居室内の女性の様子を盗撮」という行為は、改正前の第3条第3項では個人の住居が規制の対象外だったことで迷惑防止条例違反として検挙できなかっただろうことがわかります。
それが改正条例では「住居」の文言が加えられ「多数の者が集まり、又は利用する施設」に限定されなくなったことで改正後の迷惑防止条例違反として検挙することができたのでしょう。
また、この条例改正では盗撮行為の規制場所の拡大だけではなく罰則の強化も行われています。
岡山県 迷惑行為防止条例 第13条
常習として前項に規定する違反行為をした者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
従来は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習者については1年以下の懲役又は100万円以下の罰金という罰則でしたので懲役刑でも罰金刑でも概ね倍に強化されました。規制される行為や場所の拡大を伴う条例改正を行った他県でも罰則は据え置いているケースがある中でこれは相当厳しく取り締まろうという考えが表れているのでしょう。
勿論岡山県でこれから盗撮で捕まると一律で従来の倍の罰則が科されるというわけではなく、おそらく大部分の盗撮事件においては従来と大して変わらない処分になると思われますが、罰則の上限が検討されるような悪質な事件や常習盗撮の事件においては概ね倍に引き上げられた法定刑の差が出てくるのではないでしょうか。
小学校で窃盗・盗撮 元教諭に懲役3年求刑 地裁公判 /奈良
勤務先の奈良市立富雄北小学校で金庫の現金を盗んだり、着替え中の児童を盗撮したりしたとして、窃盗と児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)などの罪に問われた元同小教諭(25)=大和郡山市新町=の論告求刑公判が12日、奈良地裁(中山登裁判官)であった。
検察側は「動機は身勝手であり、酌むべき事情…
引用元 : 毎日新聞 2019年12月13日配信
※被告人の氏名部分を修正しております。
以前の記事で取り上げていた小学校の元教員による児童ポルノの盗撮製造事件の続報で、校長室の金庫から現金を盗んでいた窃盗の罪と合わせて起訴されていましたがその論告が行われたようです。毎日新聞の有料記事なので全文が公開されていませんが、見出しを見る限りでは懲役3年を求刑されています。
先の記事で情状によっては執行猶予が付かずに実刑になる可能性もあるかもと述べていたところ、懲役3年の求刑というのは執行猶予が付くか付かないか相当微妙なラインです。一般的に執行猶予が付けられるケースでは懲役3年に執行猶予5年というのが最長になりますので、この事件でも求刑通りの懲役に執行猶予が付く判決が出る可能性はあります。
しかし、あと一歩でも踏み込むと執行猶予が付く見込みが厳しくなる微妙なラインなので、懲役が2年や2年6月などになって執行猶予が付かず実刑というケースも往々にしてあります。仮に被告人に前科があるとしたらこの求刑は実刑が見込まれるところですが、おそらく初犯と思われますので正直これは判決が出るまでわかりません。
個人的な印象としては、(おそらく)初犯である点や児童ポルノは製造までに留まっていて提供や販売等には及んでいない点、既に懲戒免職処分という社会的制裁を受けている点などからどうにかギリギリ執行猶予が付けられるのではないかと思っています。
勿論この事件では窃盗も加味された求刑となっているわけですが、軽いと言われる盗撮の罪でも被害者の年齢や件数、何を盗撮したのかによっては捕まるのが初めてでも一発で実刑となる可能性が出てくることは覚えておかなければなりません。
追記 (2019年12月27日)
奈良市の小学校で、金庫から現金を盗んだほか児童の着替えを盗撮した罪などに問われた元教諭に対し、奈良地方裁判所は、執行猶予がついた懲役3年の判決を言い渡しました。
奈良市の小学校の元教諭(25)は、ことし3月から4月にかけて勤務先の学校の金庫からおよそ38万円を盗んだほか、去年からことしにかけて、児童の着替えを盗撮した罪などに問われました。被告は初公判で罪を認め、検察は懲役3年を求刑していました。
26日の判決で、奈良地方裁判所の中山登裁判官は、「金庫を開けられる立場や状況を悪用して現金を盗む行為は悪質性が高く、ギャンブルで困窮していたという動機も身勝手だ。教室で児童の盗撮に及ぶなど言語道断であり、信頼関係を大きく傷つけた」と指摘しました。
そのうえで、「被告は犯行を認め社会で更生する環境や方策が整いつつある」として、懲役3年、執行猶予5年を言い渡しました。
被告は先月、懲戒免職になっています。
引用元 : NHK 2019年12月26日 16時55分配信
※被告人の氏名部分を修正しております。
上述の通り、やはり執行猶予付きの判決が出たようです。
求刑で懲役3年というギリギリのラインでしたが、判決理由を見た感じでは当初から犯行を認めていて、情状証人(おそらく両親のいずれか)が裁判に立って今後被告人の監督をしていく旨の証言等をしたことで執行猶予を付ける判断がなされたのではないかと思われます。