先週報道された盗撮に関するニュースに触れてまいります。
盗撮で起訴、男性に無罪判決 福岡地裁「自白に不合理」
盗撮目的で女性のワンピースの下から携帯電話を差し入れたとして、福岡県迷惑行為防止条例違反の罪に問われた福岡市の男性(44)の判決が7日、福岡地裁であった。松村一成裁判官は「捜査段階の自白の信用性は認められない」として、無罪(求刑罰金40万円)を言い渡した。
男性は2017年4月21日午後4時ごろ、福岡市早良区内の商業施設で、女性の下着を撮影する目的で動画撮影機能を起動させた携帯電話を差し入れたとして起訴されていた。男性は捜査段階で行為を認めていたが、公判では否認し、無罪を主張していた。
松村裁判官は、自白で説明された撮影時の体勢について「盗撮を試みる者としては露骨すぎて不自然」とするなど、自白に不合理な点が複数あると指摘。携帯電話に残された動画が手ぶれで明確に映っていなかった点などを踏まえ、「差し入れたとの事実を認めるには合理的な疑いが残る」と結論づけた。
引用元 : 朝日新聞 2018年9月7日 13時31分配信
盗撮事件としては珍しく無罪判決が出ている事件です。しかし犯罪の立証は検察官がすべきものではありますが、記事を読む限りでは明らかに無罪と思える事情が示されておらず疑わしい点が無くもありません。
説明された撮影時の体勢など自白に不合理な点が複数あるとのことで、記録されていた動画についても手ブレで不明確とのことですが、不明確とはいえ動画自体は存在しているわけです。商業施設内で盗撮を疑われるような動画撮影をして何を撮っていたのでしょうか。
体勢やアングルなどで盗撮を疑われるような撮影でなければそもそも「盗撮目的で女性のワンピースの下から携帯電話を差し入れた」というような被害報告も出ず客観的に見て「差し入れたのではない」と判断することができますが、不明瞭であっても脚や下半身を撮った動画だとしたら怪しいものです。
また、求刑が罰金になるような盗撮事件を検察官がわざわざ公判請求している点もやや気になります。捜査段階で盗撮を認めていたのであれば略式起訴で決着するケースが多いところ、否認に転じたのは公判段階とされていますが、略式起訴を受け入れずに公判を求めたのは男性側だったのかもしれません。
判決理由で松村一成裁判官は、撮影された動画は手ぶれが激しく、対象がはっきり映っていないと指摘。「確実に下着が映るように、携帯電話をスカート内に約5秒間差し入れた」とする男性の自白内容と、動画が整合しないと述べた。
その上で、被告が任意の取り調べを繰り返し受けていたことから「罪悪感などから取調官の誘導に乗る形で、自白ができあがったとしても不自然とは言えない」とし、自白の信用性を否定した。
引用元 : 日本経済新聞 2018年9月7日 12時56分配信
他の記事では上記のようにも報じられているところ、現場の刑事による違法な誘導尋問があったことを検察官が知らないまま捜査が進み、男性とその弁護人にそこを突かれてひっくり返されたというのが実態なのではないでしょうか。
上述したように一般論としては盗撮ではないかと思われるような不審な挙動や動画が無ければ事件が始まらないわけですが、その事実はさて置いて違法捜査による自白は証拠採用できないので無罪という話なのかもしれません。
捜査の適法性など手続きの問題だとしたらいわゆる冤罪というものとは話が違ってきますので、無罪だからと言って本当はやっていない盗撮の罪を着せられた冤罪事件だと短絡しない方が良いように思います。
あの有名人も被害に!?“盗撮ビジネス”の衝撃の実態
経済評論家の門倉貴史氏(46)が6日深夜放送の「じっくり聞いタロウ」(テレビ東京系)に出演。裏社会でうごめく“盗撮ビジネス”の衝撃の実態を明らかにした。
この日の番組では、薬物の密輸や売買、闇カジノの経営といった犯罪行為や、脱税などの違法行為で不正に行われる経済活動、いわゆる“地下経済”を特集。“黒い金”に詳しい門倉氏によると、およそ25兆円もの大金が地下経済で動いているという。
さまざま地下経済の中でも、日本で特に盛んなのが盗撮ビジネスだ。日本には盗撮の愛好家が多く、専門の配信業者が高値で動画を買い取ってくれるという。クオリティーが高い動画の取引値は、なんと200万円。門倉氏は、被写体が有名人の場合などに高値が付くとその内情を語った。
著名人も被害に遭っていることを知った出演者は一同騒然。MCの河本準一は「うわー!やっぱりあるんだ!」とやるせない表情を見せ、週替わりMCのモデル、ほのか(22)も「撮られちゃうんだ…」と絶句していた。
引用元 : 夕刊フジ 2018年9月7日 16時56分配信
夕刊フジの深夜番組をネタ元にした記事に突っ込むのはある意味で無粋と言えるかもしれませんが、随分とお粗末な事情を開陳したものに思えます。お粗末という以上に周回遅れといったところでしょうか。
盗撮動画の販売を摘発することは難しいということで以前取り上げており、当時から市場規模が大きくなっていく可能性についても触れていますが、これが成立し得る前提として被害者が自分の動画が売られていることには気付きづらいことと、気付けても摘発に至るまでにハードルがあるということが挙げられます。
しかし当然ですがこれらの前提が崩れれば過去に取り上げている記事にもあるように摘発へ至ることになります。アイドルやタレント、モデルや女子アナのような著名人ともなればその盗撮動画を販売されるとなった場合に関係者の耳目に触れることは避けられません。
業者としても買い取った盗撮動画で儲けるためには宣伝しなければならず、宣伝すれば儲ける前にストップがかかりかねません。強引に販売に踏み切ったとしても過去の事例が示すように手が後ろに回る可能性が出てきます。
クローズドな場では大きく儲けることができず、仮にクローズドな場で限られた人たちに高単価で売るなどしても密告の可能性は残るのでこれもリスクが大きいでしょう。結局のところ今どき著名人だからと高く買う業者などいないのではないでしょうか。
ひと昔前とは時代が変わっていて著名人の盗撮動画で儲けようとする商売などには危なくて誰も手を出さなくなっていると言えますが、しかし時代が変わっているという観点では違法性のある盗撮動画などを販売・配信する業者が身元を隠す手段が増えてきているとも言えるでしょう。
例えば海外のサーバー事業者などが運営する防弾ホスティングなどを利用し、日本国内ではなく海外の利用者向けを装った販売・配信サイトを作り、その上で購入や支払いの方法を仮想通貨などに限定するといったようなひと昔前では実現できなかった手段を用いる方法です。
このままでは視聴に至るまでのハードルがやや高いので売上を大きくするためにはまだ工夫が必要でしょうが、そうした状況にまでなると著名人本人や関係者がそれを知り警察などへ相談しても解決は相当困難になると考えられます。
児童ポルノでなければ盗撮動画を購入し所持することは違法ではないという事情もあり、テクノロジーの進歩によりこうした盗撮動画を「強引に販売する」ことのハードルが下がる未来が到来したら、本人や関係者が知っても止めようが無いということにもなるかもしれません。
【福岡】小学校トイレで“女児を盗撮”男を逮捕
6歳の女の子の下半身を盗撮した疑いで30代の会社員の男が再逮捕されました。
警察によりますと福岡市南区の会社員(39)は7月、福岡市南区にある小学校のトイレで6歳の女の子の下半身をスマートフォンで盗撮した疑いがもたれています。
日曜日に、グラウンドで遊んでいた女の子が、トイレに行った際、容疑者が「見ていてあげる」などと言って付き添ったとみられています。容疑を認めています。
容疑者は、別の女の子を盗撮した疑いで、先月逮捕されていました。
引用元 : 九州朝日放送 2018年9月7日 19時47分配信
※被疑者の氏名部分を修正しております。
他の記事も探してみましたが具体的に何の罪で逮捕されたのかハッキリしない事件です。考えられるのは建造物侵入、迷惑防止条例違反、児童ポルノ禁止法違反といったところでしょうが、小学校のトイレへ侵入した疑いとはされていないので後の2ついずれかでしょうか。
「6歳の女の子の下半身」とオブラートに包んで表現されていて「下半身」というのが陰部や臀部を指しているのか、文字通り下半身であって脱衣した状態の陰部や臀部を直接指すものではないのか、ちょっと判断しかねます。
前者であればもちろん児童ポルノの製造ということになりますが、後者の場合は微妙なところで迷惑防止条例違反に留まる可能性があるでしょう。
しかし、福岡県の迷惑防止条例では盗撮を含む卑わいな行為が規制される場所が公共の場所や公衆が利用できる場所などに限定されているので、結局迷惑防止条例違反ではなく児童ポルノ禁止法違反なのかもしれません。
福岡県 迷惑行為防止条例 第6条
- 他人の身体に直接触れ、又は衣服の上から触れること。
- 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
何人も、公共の場所、公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所において、正当な理由がないのに、前項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。
- 通常衣服で隠されている他人の身体又は他人が着用している下着をのぞき見し、又は写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下この条において「写真機等」という。)を用いて撮影すること。
- 前号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。
何人も、正当な理由がないのに、第一項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。
- 公衆便所、公衆浴場、公衆が利用することができる更衣室その他の公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人の姿態をのぞき見し、又は写真機等を用いて撮影すること。
- 前号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。
事件現場が小学校のトイレなので、条例が定める公共の場所や公衆の目に触れるような場所、公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所には該当しないと思われ、迷惑防止条例違反は適用できないのではと考えられます。
これが小学校のトイレではなく公園の公衆トイレなどであって、盗撮した画像や動画が児童ポルノとは判断されないものであれば第3項に該当する可能性もあったのではと思います。
この事件は別の事件の余罪として発覚したもので、先にあった別の女の子を盗撮した疑いというのも児童ポルノの製造に絡むものだとしたら元々が児童ポルノ禁止法違反の線で捜査していたものかもしれません。
グラウンドで遊んでいた女の子がトイレへ行く際に「見ていてあげる」などと言うのは誰が見ても不審ですが、大人が見れば怪しいと思えるものでも小さい女の子相手なら言い包められると考えたのでしょうか。
児童ポルノの製造が疑われる事件の余罪として同様の事件が発覚したことにより再逮捕ということなので印象は悪く、良くても50万円からの罰金刑、悪ければ公判請求されて執行猶予付きの懲役刑も視野に入ってくるのではと思われます。